現代の宿命

よりよく天寿を全うしたいという願いは、古来より人間が抱く切実な思いだと言えます。ふと冷静に考えてみると、最新科学の成果ゆえに、生と死に関する根底が揺さぶられるというのは、この長寿遺伝子発見に始まったことではありません。

特に20世紀以降、生命科学の分野は著しい進歩を遂げています。生命の秘密が徐々に明らかとなる一方、生命観や人生観を揺るがす事態が次々と起こりました。「利己的な遺伝子」という概念もそうですし、「試験管ベイビー」と呼ばれた生殖補助技術の開発もそうでしょう。

様々な形で、古くから生命観は揺さぶられ、再検討を余儀なくされているのです。あるいは、それが現代の宿命という事なのかもしれません。死と向かい合って育まれてきた生命観、倫理観も人間の営みの成果である一方、おのれの由来を知りたいという強い欲求もまた、人間だけが持つ衝動でしょう。

その欲求に基づいた探求も間違いなく人間の営みです。その一つである生命科学の進展だけを止めるというのは不可能でしょう。